■『獣兵衛忍風帖』


もしあなたがまだ観ていないのなら、観た方がいい。観るべき。いや、観なさい。
1993年、10年も前の作品だが、これほどの出来栄えのアニメにはこれ以後出逢っていない、と言っても差し支えないだろう。
『忍者ものビジュアル・エンターテインメント』として、アニメとしてだけでなく、時代劇としても一級品、ではないだろうか。

凄腕のはぐれ忍び・牙神獣兵衛は、偶然、奇怪な大男に襲われるくの一・陽炎を助ける。その時から、運命の歯車は廻りはじめた…公儀隠密・濁庵の計略により、謎の忍び集団「鬼門八人衆」を敵にまわし戦うはめになった獣兵衛。しかし、「鬼門八人衆」の頭領は、獣兵衛にとって宿縁の人物だった…

奇怪な技を使う「鬼門八人衆」、乱れ飛ぶ手裏剣、炸裂する剣戟。
そりゃあもうアニメーションの見どころ満載。
そのひとつひとつの動きが凄いテンポ。
「極端にテンションを高めたハイテンポなアクションをめざした。一つ一つの細かい動きはよくわからないけれども、全体としての動きはわかるというぐらい早いやつを。」
と川尻監督自身が言うように、コマ送りにでもしないと一つ一つの動きは捕らえられないだろう。が、その、はっきり見えない部分でも、この作品はまったく手を抜いていない。一瞬の一コマの、その表情が、動きが、いちいち素晴らしい。ハイテンポなアクションのなかで、「口元の僅かな表情」や「目線」(しかもその目線は笠に隠れて見えないにも関わらず確実にそこに彼の視線が存在するのだ)で演技するアニメキャラクターが、かつて、いや、今のアニメにでも、存在するだろうか?
原作・脚本・監督・キャラクター原案全て川尻善昭、しかも作成協力マッドハウス、と、もうなんでもやっちゃって下さいっ!ってなもんです。
本当に、なんでもやっちゃってます。頭はカチ割る、胴は真っ二つ、首は飛ぶ、腕は千切れる、血の雨は降る、女は抱く、くの一はいたぶられる。そういうのが苦手な人には、お勧めできないかも。
獣兵衛がまた、やられまくるんだわ。すんなり勝ちやしないの。凄腕、ってのは、オープニングで示されるんだけどね。「鬼門八人衆」相手にはやたらと苦戦なところが、また、判官びいきの心をくすぐる。
しかしやられてても不敵なんだよね、獣兵衛。ぼろぼろにされてるのに、「これ以上やると‘どっちかが’死ぬことになる」とか「ぶっ殺してやる」とか言うんだけど、それが全然、強がりじゃない、そんなふうには聞こえないのね。『不屈のヒーロー』って、宣伝のあおり文句にあったけど、ヒーローかどうかは置いといて、不屈って言葉はぴったりだな。
90分っていう、今では短い作品なんだけど、「(アクション映画で)あなたのベストは?」って聞かれれば、今のところ、間違い無く、『獣兵衛忍風帖』と答えるなあ。
物語自体は、単純なものなんだけれど、ビジュアル・エンターテインメントとして、これ以上のものはまだ観ていない。
弦馬と獣兵衛の対決シーン、アニメとしても、時代劇としても、マイベストです。あれほど壮絶な‘男の色気’のある闘いはなかなかお目にかかれません。